2025年6月30日
芸術鑑賞雑記 vol.17

舞台で巡る世界の旅/オーストリー

JUAスタッフが観たり聴いたりしたものの感動興奮感想をお福分け。

マリー・アントワネットに誘われるようにして、たどり着いたのはウィーン。言わずと知れた「音楽の都」である。ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト……名だたる作曲家たちがこの街で才能を開花させ、後世に残る音楽を生み出してきた。

日本で最も知られているウィーン発のミュージカルといえば、やはり『エリザベート』だろう。舞台は、19世紀後半、終焉を迎えつつあったハプスブルク帝国。主人公のエリザベートは、ドイツ・バイエルン王国の公爵家に生まれ、自由な気風の中で育った少女。そんな彼女が、16歳でオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフの皇后となるが、伝統と格式の宮廷に縛られ、苦しみ、やがてはヨーロッパ各地を放浪することになる。そして、最後はジュネーヴで暗殺されるという波乱に満ちた人生が描かれる。

この作品のもう一つの軸となるのが、彼女を執拗に誘惑し続ける「死(トート)」という架空の存在だ。彼との関係を通して、帝国の終焉と新たな時代の胎動が浮かび上がってくる。ミュージカル『エリザベート』は、まさにウィーンの歴史と幻想が交錯する、美しくも哀しい傑作である。

私自身、この作品にすっかり魅了されていて、宝塚版、東宝版を何度も観てきた。今や、冒頭からラエンディングまで、「ひとりエリザベート」ができるほど、全編をそらんじてしまっている。アメリカのブロードウェイ作品とは一線を画す、圧倒的な世界観と、ドラマティックで深みのある楽曲群。これこそが『エリザベート』の魔力なのだと思う。

ウィーンを訪れたのはもう10年以上前になるが、作品の中で描かれる「1854年4月24日午後6時半、ウィーン・アウグスティーナ教会での、黄昏時の結婚式」という一節を耳にすると、妙にシンプルな内観が蘇ってくる。

さて、今秋から年明けにかけて、新キャストによる公演が決定している。注目に値するのは、音楽学校時代に寮の同室だった2人の女優が、シシィ(エリザベート)をダブルキャストで演じるという、何とも胸アツな配役。しかも彼女たちは、過去に「トート」役としても舞台に立っている。今回、トート役は3名のキャストが交替で務めるが、そこにこの2人を加えたら…と想像するだけで、夢が広がる。

さあ、今度はウィーンを舞台に、音楽と歴史が織りなす新たな旅が始まる――。(ロメロ)

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