COLUMN

JUAスタッフによるコラム

2025年3月31日
芸術鑑賞雑記 vol.14

あっぱれな七変化

JUAスタッフが観たり聴いたりしたものの感動興奮感想をお福分け。

超がつくほど久しぶりに歌舞伎を観た。かつて、若手歌舞伎、花形歌舞伎などと呼ばれた舞台で活躍していた贔屓がいた。その後、大名跡を襲名して大人気役者となったが、近年、その方も含めて同年代の役者たちが相次いで亡くなり、随分と足が遠のいていた。だが、半年ほど前に明治座の前を通った際に目に入った『十一月花形歌舞伎』のポスターが何とも眩しく、先行販売にも間に合う時期だったので、引き寄せられるようにチケットを購入した。

「明治座十一月花形歌舞伎」夜の部。幸運なことに、花道横の席を確保することができた。演目は「鎌倉三代記」と、二幕物の「お染の七役」。30分の休憩が二回あり、終わってみれば4時間の長丁場だったが、そんなことは微塵も感じさせないほど引き込まれていった。

「お染の七役」は、四世鶴屋南北による「於染久松色読販」という世話物の作品で、主役のお染を演じる女形がお染を含む7つの役を演じることから、その名で親しまれている。今回の公演では、中村七之助が一人で七役を演じたのだが、その芝居が圧巻だった。

質店油屋の娘お染と丁稚の久松の悲恋を軸に、名刀と折紙(鑑定書)紛失によるお家騒動が絡んだ物語だが、七役の演じ分けが見事で、衣装やカツラの早替わりが、まるでイリュージョンのようだった。衝立の後ろや舞台袖にはけたかと思ったら、次の瞬間、花道奥の揚幕がシャリンと鳴って登場。駕籠に乗って花道から舞台に向かったかと思いきや、すっぽんから消えて、十数秒後には本舞台に現れるなど、目まぐるしく動き回る「七人」に、心を奪われた。

七役のなかで特に素晴らしかったのが、「土手のお六」。名刀を紛失し切腹した父の汚名を返上するために奔走する竹川・久松の姉弟の奉公人だったお六は、刀を探索するための資金調達を姉から頼まれ、亭主に相談するが、実は、亭主の喜兵衛こそが、名刀を盗んだ張本人だった。油屋から百両を強請り取ろうとするお六と喜兵衛のドタバタした場面は何ともおかしい。最も魅せられたのが、若い娘(お染)を演じているときの声とはまったく違う、「悪婆」(お六)の、女形にしか出せない艶っぽい声だった。

「ぶち打擲をしなすったんだねぇ」 ―― 凄みをきかせたセリフだが、お六の複雑な思いが込められているように聞こえた。(ロメロ)

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