2025年5月31日
弊社ミニBarのカウンターから vol.12

やめられない

弊社ミニBarのカウンターからJUAスタッフの雑談呟きなどです。

以前に「最後の晩餐」について書いたが、麻婆豆腐のほかにも、死ぬ前に食べたいものはたくさんある。寿司、カレー、担々麺、ビーフシチューなどが上位にランクインするが、正確に言えば、単なる「ジャンル」では足りない。「●●●鮨」の「小肌」や、「○○○」の「辛口チキン・キーマ」など、具体的な一品でなければ意味がないのだ。

ビーフシチューといえば、我が母が作る「ブッフ・ブルギニオン」が絶品である。セロリ、にんじん、玉ねぎ、にんにくとともに、牛すね肉を2日間、赤ワインにじっくり漬け込む。料理名のとおりフランス・ブルゴーニュ地方の郷土料理なので、当然、使うワインもブルゴーニュ産だ。漬け込みの工程を経た肉を取り出し、あらためて赤ワインで煮込みこと、およそ2時間。肉はホロホロの仕上がりに。味を調えて完成だ。幼いころ、誕生日など、この料理が食卓に出る日は、嬉しさのあまり朝から走り回っていた記憶がある。

と、ここまで書いておきながら、「死ぬ前に食べたいもの」となると、実は他に心を奪われる逸品がある(母よ、許せ)。じつは、自宅のすぐ裏通りに、知る人ぞ知る担々麺の名店があるのだ。開店当初から中華料理一筋の店だが、現在は昼が週3日の麺類営業、夜は完全予約制のおまかせ中華。予約がない日は、突如アラカルト営業になるという柔軟さだ。こだわり抜いた食材を店主が超一級の中華に仕上げ、自然派ワインとともに楽しむスタイルで、夜は少々敷居が高い。だが、昼の担々麺は週に一度は食べないと、何かが欠けているような気がして、つい足が向いてしまう。

麻婆豆腐と担々麺に共通するスパイスは、何と言っても花椒だ。痺れるような赤、爽やかに香る青――店によって配合はさまざまだが、個人的には「痺れ重視」派で、かなり強烈なものが好みだ。もはやこれは「中毒」か「依存症」か。試しに調べてみると、「中毒」は「ある物質を体内に摂取することで機能障害を起こすこと」、「依存症」は「物質や行動に対する欲求が強く、コントロールが難しくなる心理的な状態」とあり、どうやら後者が正解のようだ。

以前は市販のパウダー状の花椒を使っていたが、コストと鮮度の観点から、今はホールタイプを購入して、専用の電動ミルで都度挽いている。香りも痺れも断然フレッシュ。料理によって赤と青の比率を調整するなど、日々「探求」に余念がない。

「ああ、この痺れ具合がたまらない……」と恍惚の中にいた、ある日の夜のこと。夕飯を終えてソファで寝落ちしていたのだが、ふと目を覚ますと、自分の右手の上に自分が座っていた。いやいや、そんな姿勢で1時間も寝ていたら……そりゃ、痺れるだろう!(オクターヴ)

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